「長面浦海人の家」ができるまで
長面浦は石巻市北部、北上川河口域にある周囲8Kmほどの内海です。
震災前は長面(ながつら)、尾崎(おのさき)の2つの集落に約200世帯、700人が住んでいました。生業は牡蛎養殖と刺し網漁、農業。半農半漁の穏やかな暮らしを営んでいました。
東日本大震災により長面地区はすべての建物と100人を越す人命を失いました。尾崎地区でも各戸1階の天井まで浸水し、12人が死亡・行方不明となり、裏手の山に避難した住民はヘリで救出されました。多くのボランティアの助けを受け復旧を目指しましたが、長面地域の大半が水没するなど被災の度合いは大きく、電気・水道の復旧や本格的な復興への糸口はなかなか見えてきませんでした。
2012年11月土盛りをしただけの県道。ここを毎日通いました
そんななか2012年秋、長面浦の漁師有志が呼びかけ「長面浦の復興と漁業を考える会」が結成されました。建築家の竹内昌義・東北芸術工科大学教授、大沼正寛・東北工業大学准教授を招き、地域や漁業の未来について議論を重ねました。その結果、地域再生の第一歩として、長面浦を愛する人の拠点となる「番屋」の建設を目指すことになりました。
漁師の心意気に応えて2013年5月、NPO「市民の絆フランス」が支援を表明。同年9月、運営主体として「一般社団法人長面浦海人」が設立されました。
その後、公益財団法人 日本財団の番屋再生プロジェクトとして採択され、漁協の事業として「長面浦番屋」建設が実現しました。
設計には建築デザイナーの松野由夏さんを迎え、漁師たちと打ち合わせを重ね「軽やかで未来を感じさせるデザインに」「広い縁側がほしい」という希望に応え、約140平米の建築面積の半分が軒下と縁側、海に向かい大きな窓があるのびやかで温かみのある「海人の家」が、2014年10月5日、竣工しました。
「番屋」建設を目指すなかで、地域の将来像についても議論を交わしました。長面浦の恵まれた自然環境と、おいしい牡蛎を消費地の人に知ってもらい、交流を深めることで生業を立て直すこと、また仮設などで暮らす地域の方が長面浦でのんびりできる場をつくることで復興へのステップにしようと、カフェを運営することになりました。
「はまなすカフェ」という名前は、かつて長面浦に群生していたハマナスがもう一度いっぱい咲く日が来ることを願ってつけられました。